あなたしか見えないわけじゃない
「しおりちゃんが島に来た時に、私やウチのダンナに池田先生があまりにも何度も『志織をお願いします』って言うもんだから、はじめはどんなとんでもない子を連れて来たのかと思ったのよ」
あははっと笑った。

「でも、実際は美人なのに気取らないし、仕事はできるし、優しいしで驚いたわ。島の人ともすぐに馴染んじゃって。そのうち、ああ、池田先生の心配はこっちだったかって気が付いたのよね」

林さんがそう言うのを聞いて私は少しショックだった。
ひとり立ちしようと、大人の女を目指して島に来て頑張るつもりだったのにやっぱり洋ちゃんに守られていたなんて。
みんなみんな洋ちゃんにお願いされていたんだ。
私が作った人間関係じゃなかった。
洋ちゃん……。

明らかに暗く沈んだ私に気が付いた林さんがおろおろしはじめた。
「ごめんなさい、私、余分な事言っちゃったみたい」

「あ、いえ、そんなことありません…」

顔色を無くした私に奥さんが優しく語りかけた。

「しおちゃんは池田先生に守られるのがイヤなの?」

「嫌ではないんです。そうじゃなくて、守られてばかりはイヤなんです。私も対等に洋ちゃんを支えてあげたいっていうか。小さい頃からずっとずっと守られていて。これって対等な立場じゃないですよね。これから先もずっと洋ちゃんのお荷物になるなんてそんなのイヤです」

私は少し感情的になってしまった。

「しおちゃんが考えてることと事実は違うかなって思うのよ」
そう奥さんが言うと、後藤先生も頷いた。

「志織ちゃんは一生懸命働いてたし、島に溶け込んで生活していたのと池田先生がみんなにお願いしていたことは、関係なくはないけど、でも島に馴染んだのは志織ちゃん自身の力だよ」

そう言われても。

「例え池田先生に頼まれていてもイヤな子はイヤだからね。みんな受け入れないわよ。
しおりちゃんは違ったんだよ。明るくて楽しくて。
最初に見たときはこんな色白で美人だけど都会慣れしてそうな子が田舎の離島で大丈夫かしら?って思ったの。
でも、何でも美味しそうに食べるし、大きな口を開けて豪快に笑うし、小学生とザバザバ海に入るし、往診途中に漁師のおじさん達の輪に入ってちゃっかり網焼きの魚を食べたりしてるし。
農協の婦人部のおばちゃんたちのお茶会メンバーにも入ってたわよね。吉田さんちの小学生の双子もよく泊まりに来ていたんでしょ?」

わ、林さん、よくご存じで…。

「それはしおちゃんが作った人間関係よ。池田先生はそこまでしてない。確かによろしくお願いしますって言われたけどねー、それって、しおりちゃんに島の男達を近づけないようにお願いされてただけだからねー」

え?島の男?
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