あなたしか見えないわけじゃない
宴会の序盤から女医やナースに腕を組まれたりしがみつかれていましたよね。

自席で食べ始めても、周りを女性達に囲まれて騒いでましたよね。ホステスに囲まれる男性客って感じだから、彼がホステスってわけじゃないけど。
にこにこと胡散臭い笑顔を振りまいていたように見える。

そんなあなたに横山先生が非難される筋合いなんてない。

「俺は断ろうと思えば断れる」

「私も同じです」

キッパリと目を見て言い切った。

「私は杉山部長と話すのが嫌いではありません。ご心配なく。失礼します」

横山先生の腕を引っ張りその場を離れた。

イケメンドクターがどんな顔をしていたかはわからない。

「藤野、言い方怖かったぞ。お前のこと心配してくれてたんじゃないの?」

「んー。そうかな。でも、横山先生に理不尽なこと言うしさ。それに私はあの先生と関わり合いたくないんだよね。じゃ、杉山部長んとこ戻るから」

横山先生から離れて笑顔で杉山部長の隣に戻る。

「詩織ちゃん、遅かったね。体調悪くなったのかい?」

「いいえ、大丈夫ですよ。ちょっと風に吹かれてきました。さー、飲み直しましょう」

ほらね、杉山部長は優しい。
他の人には厳しいのかもしれないけど、私はイヤな扱いをされたことなんてない。

チラッとイケメンドクターの姿を探す。

ああ、年配の看護助手さんに抱き付かれてるじゃない。
あなたの方がホストみたいよ。

あなたは自分で断れるんでしょ、今もされるままになっているのは自分でそれを選んでいるから。
そういうこと。

彼から視線を外そうとした瞬間、目が合った。

私は無表情を取り繕って視線を外した。
もう私に構わないで。

それからのお酒は美味しくなかった。

1次会が終わると私のお役目も終わり。

杉山部長はタクシーで帰宅する。

「詩織ちゃん、次は納涼会だよ」

「はい。また楽しいお話期待しています」

笑顔で手を振る。

いつもなら2次会に行き仲良しで盛り上がる。

最近は木村さんも嫌がらせをしてこない。
日々努力の成果。
積極的に話しかけ、処置を先回りして手伝っているからだ。
おかげで、私がミスをしてもネチネチと言われることもなくなった。
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