あなたしか見えないわけじゃない
そうなんだ。
小さい頃からこうと決めたら曲がらない人だった。
ホントにあのおばさんの息子だよ。
そういうところはそっくり。

実は洋兄ちゃんと私は私の母の実家の隣の家の息子さんという関係だけではない。

洋兄ちゃんのお母さんはうちの母の小学生からのお友達なのだ。

だから、私が生まれる前からほとんど親戚のように家族ぐるみの付き合いをしている。

そういうわけで、小さい頃はお泊まりもしていたし、洋兄ちゃんと一緒にお風呂も入っていたし一緒に寝ていた。
誰にも言ってないけど。
いや、老酒事件の時に言いかけちゃったな。

今日は確か師長会議でまだ師長は残っているはず。
洋兄ちゃんは知っててこんな強引なことを言い出したんだろう。

きっと、今日か明日にでも私の休暇予定が決まるんだろうな。
うちの師長は洋兄ちゃんの大ファンだからきっと言いなりだ。
爽やかなくせに悪いオトコだよ。
はぁ。

でも、洋兄ちゃんのおかげで、彼の転勤の話を聞いて動揺していた気持ちが紛れた。
明日の夜は彼に会えるはずだから、直接聞いてみよう。

夜、自分の部屋で寛いでいると洋兄ちゃんから電話がかかってきた。
洋兄ちゃんは大事な用件はメールじゃなくて電話をしてくれる。

「志織、来週の金曜は夜勤だったよね。夜勤明けの土曜日に出て月曜の夜にこっちに戻るから」

「ちょっと待って。日、月は日勤だったはずだよ」

「いや、日勤者が多いから志織は休んでいいって師長が言ってた」

「まさか…洋兄ちゃん…」

「志織は何も気にしなくても大丈夫だよ。師長がいいって言ったんだから」

「洋兄ちゃん、師長に何したの?」

「何にもしてないよ。するわけないでしょ。ただ、お願いしただけだからね」

いい、明日師長に聞いてみるから。

「車はどっちのにする?どうせ大した荷物もないから車は志織の車でもいいよ。でも、志織は夜勤明けだからどっちの車でも寝てていからね」

洋兄ちゃんの車は国産の高級車のSUV。
格好良くて乗り心地も抜群。
でも、最近遠乗りしてないから私の車にしてもらった。

来週の土曜日か。
洋兄ちゃんと一緒に帰ったら洋兄ちゃんちとうちの家族でずっと宴会かも。
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