あなたしか見えないわけじゃない
翌朝目が覚めると、私はベッドで寝ていた。

洋兄ちゃんのお布団で寝たはずだったのに、私が寝付いてから運ばれてしまったらしい。
やっぱり一緒に寝てもらえなかったんだとがっかりした。
そうだよね、もう幼い子どもじゃないんだから。

時刻は9時。
洋兄ちゃんはとっくに出勤していた。
身体を起こそうとして気が付いた。
ベッドには枕が2つ並んでいた。お布団に枕はない。

私をベッドに運んだ後、洋兄ちゃんも一緒に寝てくれたらしい。
落ち込みかけた気分はどこかに行ってしまった。
やっぱり洋兄ちゃんは私の期待を裏切らない。

元気よくベッドから下りて寝室を出た。

ダイニングテーブルの上にメモがある。

『志織、おはよう。
起きたら俺の仕事用の携帯電話にメールを入れること。
俺の私用の携帯電話を置いていくから自由に使っていいよ』

え、これって洋兄ちゃんのスマホだよね。
置いていっちゃってよかったの?しかも、自由に使っていいだなんて……もちろん使わないけど。
私に見られて困るメールや画像とかないのかな?
かかってきて私が出たら困る電話だってあるでしょうが。

ま、とりあえず生存確認?生存報告?の連絡をしなきゃ。
洋兄ちゃんのスマホから仕事用携帯にメールを送る。
『おはよう。すっきり目覚めたよ。志織』

15分位後にスマホにメールが届いた。
どきどきしながらスマホの画面をのぞき込むと『仕事用』と表示されていた。

おそるおそるスマホをタップする。

『志織。昼には姉さんが来るから。それまで出掛けないで家にいるんだよ。わかった?』

久美さんが来る?
洋兄ちゃんが連絡してくれたんだ。
ああ、2人には迷惑かけっぱなしだ。


それからしばらくすると、本当に久美さんが来た。

「しおちゃーん、久しぶり」
玄関を開けるとすぐにハグ。
あ、久美さんの匂いだ。少しだけ甘い香り。

「久美さーん、会いたかったー」
私もギュッと抱き付いた。
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