あなたしか見えないわけじゃない
洋兄ちゃんのマンションの最寄りの駅前にある深夜営業しているスーパーに寄って手早く買い物をしてタクシーで帰宅した。

洋兄ちゃんは深夜でもしっかりと食べたがる。
午前中から10時間以上のオペをこなして体力を使うのだろう。
だから、夜食といってもカロリーはしっかりした夕食並み。
ただ、品数は少ない方がいい。
疲れているからいろいろ食べると言うよりもガツンと単品の方が食べやすい。

今夜は鶏の蜂蜜照り焼き丼と粕汁。
鶏はモモ肉じゃなくてムネ肉にした。
洋兄ちゃんも30才を過ぎてるからね。少しでもヘルシーに。

柔らかく、更に味がしみ込むようにに鶏肉を玉ねぎと生姜、ニンニクに漬け込んでいる間にシャワーを浴びた。


クッションを抱いてごろごろと寛いでいると、玄関から物音がした。
あ、洋兄ちゃんだ。

「お帰り-!」
リビングから廊下に走ってお出迎えする。
「うん、ただいま、志織。え、何、久しぶりだからすごいな、それ」
洋兄ちゃんは私の格好を見てちょっとだけ目を見開いたけど、すぐにいつもの落ち着いた洋兄ちゃんに戻ってしまった。

私は白猫の部屋着だったのだ。
「去年は確かに白猫だったけど、島で日焼けして肌が浅黒いから、しましま模様かなぁ」

洋兄ちゃんに見せようとクルッと1回転する。

「はぁー、やっぱり猫の部屋着は島に持たせなくてよかった」と言って軽くハグした。
そう、この部屋着は洋兄ちゃんちに置いて行ったのだ。というか洋兄ちゃんに持って行かせてもらえなかった。

洋兄ちゃんをシャワーに送り出し、夜食を作った。

私が横浜に来たのは木村さんの送別会のためだけじゃない。洋兄ちゃんに話があったからなんだけど、忙しいからなかなかゆっくり話す時間はなさそう。

島に渡って10ヶ月。あと2ヶ月で契約終了になるから、今後契約更新するのか、退職して新しく仕事を探すのかそろそろ決めなければならない。
その話をしたかった。
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