過保護な騎士団長の絶対愛
「少し、しくじっただけだ」

「これ、あげるから付けときなさい。すぐに治るわよ」

 イザベルは薬師でもある。棚から軟膏の入った小さな容器を取り出すとユリウスに渡した。

「すまない」

 昨夜の今日で、すぐに傷口が塞がるわけでもなく、じくじく痛んで寝苦しかった。ユリウスは遠慮なく胸ポケットに軟膏の容器を入れる。


「私も色々気になって王都のこと少し調べてみたわ、色仕掛けで情報集めるのも結構苦労するんだから」

 イザベルは自慢の豊満な胸を揺らし、ユリウスに見せつけるがユリウスは見向きもせず動じない。そんな様子にイザベルは、フンと面白くなさそうに鼻を鳴らすと、今度はいつになく神妙な顔つきをしてユリウスの向かいに座った。

「王都には元々なかったスラム街だけど、ほとんどの人がヴァニス王国からの移住者だってわかった。その日その日をお金で雇われて生活してるみたい。それが綺麗な仕事……とは思えないけど」

「ヴァニス……」

 ユリウスにとって、あまり聞いてて心地の良い名前ではない。そしてイザベルは続けて言った。

「あと、たぶん一番これが厄介なんなけど……ヴァニス王国の第一王位継承者、つまり、あなたのお兄様ね、彼が動き出したわ」

「な、んだって……?」
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