過保護な騎士団長の絶対愛
 ユリウスは自分に兄がいるということは知っていた。あまり会話もした記憶もなければ名前さえもうろ覚えだ。しかし、彼はヴァニスが滅びた時に行方知れずになっていたはずだ。ユリウスに嫌な予感が走る。


「名前はガイル。ガイル・レオット・スティーガよ」


「なぜ今頃その男が動き出すんだ?」


 イザベルはユリウスの鋭い眼光に、目を逸らして言った。


「さぁ……わからないわ」

 その昔、ユリウスが地下室に閉じ込められていた時、クリフトが自分の様子を見に来る際、常に傍にいた少年がいた。クリフトに暴力を振るわれているのを見ながら、彼は笑っていた。その少年をユリウスがねめつけると、その彼は自分を蔑むような眼差を向けてきた。


 いまさらその俺の兄、とやらがいったい何を企んでるっていうんだ――。


 ユリウスに不穏な闇が胸に広がっていく。


 ヴァニスはもう滅んだというのに、この期に及んでまだ俺を消そうと言うのか――。

 どんな腹積もりなのか底知れぬガイルに、ユリウスは眉を顰めた。しかし、なにがあろうとも、ララを守ることが先決だ。

「俺は、自分の命に代えてでも、ララ様をお守りしなければならない、そういう天命だ」

「どうして!? なぜ、そこまでするの? あなたにも危険が及ぶかもしれないというのに……私――」

 イザベルは椅子から立ち上がり、向かいに座るユリウスを後ろから抱きしめた。
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