王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 街には人々が行き交っている。

 果物のたくさん入った籠を抱える婦人や、荷車を推す農夫。

 道端では露店商がいくつも並んでいて、そこに立ち寄る買い物客もいる。

 どちらにいけばいいのかわからず立ち尽くすマリーに気づく人は、物珍しそうな目でちらちらと見やるだけで、さっさと目の前を通り過ぎていく。

 よく見回すと華やかなドレスは、街では場違いのようだ。

 街の人とは明らかに身分の違う少女が、侍女も従えずにひとりでいるのもおかしいだろう。


 私、ウィルの通っている学舎がどこなのか知らないんだったわ……。


 今自分が立っている場所すらもどこかわからないのに、この街のどこかから彼を探し出すことなんて到底できそうにないと、ここまで来て心を折られてしまった。

 そもそも今日彼は学舎に行っているのだろうか。

 もしかしたら今日は休みで自宅にいるかもしれない。

 けれど、彼の家がどこなのかも、マリーにわかるはずがなかった。
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