王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「なぜ……っ……」


 溜め息のような、発作のような、呼吸の荒ぶったウィルの声が耳に吹き込まれる。

 腰をぐっと引かれると、藍色のマントが大きく風に靡き、マリーを隠すようにウィルの懐に閉じ込めてしまった。


「ウィル……」

「こんなところで、何を……」


 背中までもぎゅっと包み込まれて、マリーは胸の奥から溢れ出そうとする想いに息苦しくなった。

 抱きしめてくれるウィルの腕の中はとても温かく、ひとりでここまで来た心細さは瞬時に拭われる。

 けれど、大きな溜め息を吐く彼に、やっぱりいけないことだったのだと心が萎んだ。


「あの、ごめんなさい、私……」


 ここへ来てしまったことを謝ると、腕を緩めたウィルがサファイアの瞳を震わせて覗き込んできた。

 綺麗な青い瞳の中に吸い込まれそうになると、ウィルはもう一度大きな溜め息を吐き、深く瞬いてから視線を外した。
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