王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 いつだって優しいその笑顔に、マリーの胸は息苦しさから解き放たれる。

 替えて、今度はきゅうきゅうと心地の好いときめきの鼓動に啼いた。

 ウィルの微笑みは、マリーの不安な部分を簡単に汲み取ってくれている。

 マリーの幸せを、何より心を、彼が思ってくれていることはしっかりと伝わってきた。


「貴方のような輩に言われずとも承知しております!」


 それを跳ねつけるかのように、エレンの尖った声がふたりの視線を切り離す。

 彼女は「行きましょう」と構わずマリーの手を引き、屋敷へと強引に引き返していく。

 それでもマリーは、佇んだままのウィルの姿を目に焼き付けるかのように後ろを振り返り続ける。

 声の届かない距離まで来たところで、自分の胸のときめきの理由に名前があることに気がついた。

 息ができないほど苦しくなる感情を、マリーは彼に伝えたくて堪らなかった。




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