結婚適齢期症候群
「今日、部長に朝呼ばれただろ?」

「あ。うん。」

話してくれるの?私に?

次の言葉を待っている間、緊張で胸が苦しくなった。

「うちの娘とやり直さないか?って言われたよ。娘はまだ君に気持ちがあってやり直したいと思ってるってさ。」

その言葉は、あらゆる言葉以上に私の胸に痛みをともなって深く突き刺さった。

タカシに振られた時以上の衝撃だった。

ショウヘイは、どう答えたの?

それを聞いてどう思ったの?

「もしやり直すなら、また営業部の同じポジションに戻す用意もできているとも言われたよ。」

何それ。

まるで再婚と引き替え条件じゃない。

そんなことが異動を左右させるってどういうこと?

許されるわけがない。

もう少しで口から出そうになった言葉を飲み込んだ。

「俺、やっぱ営業やりたい。」

二本目の槍が私の胸を突き抜けた。

ショウヘイは、再婚するの?

営業の仕事欲しさに?

そんなの間違ってる。

部長もショウヘイもどうかしてる。

「・・・お前、いつもみたいに何か言ってこないの?」

ショウヘイのまだ少し濡れた前髪が私の顔をのぞき込んだ。

言えない。言える訳ない。

ショウヘイの人生に、私が何か口出しするような立場じゃないもの。

「・・・も、もしやり直すっていう選択を選ばなかったら、あなたはどうなるの?」

何とか絞り出した声は、なぜかすごくかすれていた。

「出向だって言われた。社員一名の自宅待機の仕事。」

それって。

「・・・ひどい。」

「よな?」

ショウヘイは、苦笑しながらお茶を一口飲んだ。

「あー、酒飲みて。」

ショウヘイは大きく伸びをした。

「今から買ってくる!」

私の胸は今にも張り裂けそうだった。

迷子になった気持ちが行き場を探して胸から飛び出そうになってる。

この場所からすぐにでも立ち去りたい。

・・・ショウヘイのいるこの場所から逃げたい。

すっと立ち上がった私の手をショウヘイはぎゅっとつかんだ。

「行くなよ。」





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