結婚適齢期症候群
タカシは静かにコーヒーをすすって、ゆっくりとテーブルの上にカップを置くと、私の顔を正面から見据えた。

緊張のせいか、タカシの目が少しつり上がっているように見える。

一瞬私から視線を逸らすと、ふぅーと長く息を吐いた。

いよいよだ。

タカシの緊張のボルテージに合わせて私の心拍数も上がっていく。

再び、タカシの目が私の目を捕らえた。

「あのさ。」

「はい。」

いつもなら、呼ばれて「はい」なんて言わないんだけど。

「落ち着いて聞いてくれる?」

こんな話落ち着いて聞けるはずがない。

だけど、視線を外さずこくりと頷いた。

「できちゃったんだ。」

できちゃった・・・?

何が?

「俺、結婚することになった。」

・・・。

タカシの目をじっと見続ける。

こいつは、今何を言ってる?

結婚して下さい、じゃなく、結婚することになったって?

意味不明なんですけど。

それは日本語ですか?

思わず聞き返しそうになるのをぐっと堪えて、ひたすらタカシの目からその真意を探ろうとした。

「ごめん。チサよりも大事な人ができたんだ。その人のお腹にはもう俺の子供もいて。」

思いも寄らないタカシの言葉の集まりに、ただ衝撃を受けていた。

ショックとか悲しいとか惨めとか、そんな単純な感情ではなくて、体をズドンとバズーカーで打ち抜かれたような衝撃。

今時、できちゃった婚ですか?

は?

しかも私の誕生日にそんな話を告げる為に、このラウンジ予約してんですか?

あまりの軽薄さに、バズーカーの衝撃の後、ブラックホールに吸い込まれていくような錯覚に襲われる。

というか、ブラックホールよ、私を吸い込んで、この場から私を消し去ってくれ!と言う方が正しいかもしれない。




< 2 / 192 >

この作品をシェア

pagetop