結婚適齢期症候群
デスク上の固定器の受話器を取った。

間違えないように番号をプッシュしていく。

『お客様がおかけになった電話番号は、ただ今電源が切られているか、電波の届かないところに・・・』

「まじで?」

思わず口からこぼれる。

すぐに受話器を置いて、もう一度かけてみる。

でも、同じだった。

ってことは、何らかのトラブルでこちらにも電話がかけられないような状態にあるのかもしれない。

まさか、まさかよね?

火災に巻き込まれてるなんてことはないわよね?

胸の奥からドクンドクン心臓の鼓動が伝わってくる。

倒れて、病院に運ばれてるとか?

まだ地下に閉じ込められて助けを待ってるとか?

あらぬ妄想が私の頭を駆け巡った。

その時、人事部フロアの電話が鳴った。

ショウヘイ?!

妄想をかき消して、慌てて受話器を取った。


「村上さん?」

聞き覚えのある、柔和な声。

だったけど、がっくり肩を落とす。

「岩村課長ぉ。」

「なんだよ、そんな情けない声出して。で、澤村くんとは連絡取れた?」

「さっきのニュースでS市間の地下鉄で火災が発生して、随分交通機関が混乱してるみたいです。澤村さんもその線使ってるはずだからひょっとしたら巻き込まれてるかも。」

「え?そうなのか?で、携帯には連絡取った?」

「さっきからかけてるんですけど、繋がらないんです。」

「うーん。多分大丈夫だとは思うが、連絡がつかないってのはそれはそれで心配だな。」

「ハイ・・・。どうしましょう?」

「とりあえず、こちらはこちらでなんとか誤魔化しながら先に進めておくよ。村上さんは申し訳ないけど、もうしばらく社に残って澤村くんの連絡待っててくれないか?澤村くんもまだこっちにきて間もなくて、他のメンバーの連絡先知らないと思うんだ。恐らく何らかの連絡を入れるとしたら会社の方にかけると思うから。何かわかったらすぐ俺の携帯に連絡してくれ。」

えー!

まだこっちで待ってるの??一人で??

お腹がぐーっと鳴った。

「はい、わかりました。また連絡します。」

「悪いな。お前の料理はちゃんとお皿にとってやってるから、落ち着いたら誰かに持って行かせるよ。」

「頼みます。」

お腹を擦りながら答えた。

岩村課長の電話が切れると同時に隣の総務部のフロアの明かりが消えた。

「お先に失礼するよ。」

総務課長がこちらにひょっこり顔を出して挨拶をしていった。

一人じゃん。このだだっ広いフロアに。

今年は厄年かもしれない。

自分の椅子の背もたれに、全体重を預けて座った。





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