結婚適齢期症候群
既に消灯されている人事部の隣に位置する総務部はまだ明かりがついていて、人もまばらに残っていた。

総務部の前を歩いていると、総務のお局、いやいや重鎮大先輩の上野さんが声をかけてきた。

「あら、村上さん。今日は人事は歓送迎会じゃなかったの?」

「ええ、だけど主役がまだ来なくてこれから連絡取るんです。」

「主役がまだ来てないって、歓迎される方?」

「はい、澤村さんなんですけど、今朝から出張でまだ戻らないんです。」

「どこに出張?」

「S市で開かれてるセミナーに。」

この上野さんに掴まるとなかなか話が終わらない。

なんでまたこの急いでる時に掴まっちゃうんだろう。自分の運のなさを嘆いた。

「S市だったら、ここから地下鉄よね?」

「はい。」

「ついさっきニュースで言ってたんだけど、S市に向かう地下鉄で火災が起きて今停まってるらしいわよ。バスがその間をピストンで対応してるみたいだけど、かなりの混雑みたいで。ひょっとしたら巻き込まれてるんじゃない?連絡もないんでしょ?」

え??

急に額にへんな汗がにじんだ。

胸の辺りがざわざわする。

巻き込まれたって可能性もあり?

もう!

こんな日に!

でも、地下鉄の火災って想像するだけで恐ろしいわ。

まさか火災に遭遇してるなんてことはないでしょうね?

「けが人も多数出てるって報道されてたし、心配ねぇ。」

上野さんは腕を組んで心配そうな顔をした。

本当に心配してるかどうかは別として、貴重な情報だったことは確かだ。

「上野さん、ありがとうございます。とりあえず、本人と連絡取ってみます。」

会話が途切れたところで、すかさずお礼を行って人事部フロアの方へ走って行った。

薄暗いフロアの電気をつける。

ふわっと明るくなった人事部フロアには、当たり前だけど誰もいなかった。

急いで、自分のデスクの上にある連絡先ファイルをめくる。

あったあった、澤村ショウヘイの携帯電話番号。





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