君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜
2 奇跡

 希望

「お母様。実は明日からイルタ大教会の中にお部屋を頂き、そちらで働くことになりました」

夕食時の沈黙の中、フィーがおもむろに口を開いた。
テーブルの向かい側に座っているライサの手が止まった。
普段から寡黙で、滅多なことでは感情を表に出さない母親の目が見開いていた。

「それはどなた様の命ですか?」

「カドラス大司教様です。今日お会いしました」

「そうですか。……やはり、わかる方にはわかるのですね! アッバス家にその栄を浴する資格があるということを! お父様もお喜びになっていらっしゃることでしょう」
ライサは明らかに高揚していた。

「食事などしている場合ではありません。明日の準備をなさい。こんなことなら、新しいドレスを新調しておくべきでした」
「いえ、お母様。舞踏会に行くのではありません。仕事をしに行くのですから……」

ましてや、犬の世話である。
散歩やら餌やりをするのに、とてもじゃないがすその長いドレスなど着ていられない。
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