君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜
「あ……あの、お世話というのはこの犬の事でしょうか」
「そうだ。教王様が生前に飼われていた犬でな。名前はレイ様だ」
「レイ様?」
飼い主が偉いと、犬まで様付けになるのだろうか。

おかしいとは思ったが、呼び方よりも差し迫った問題があった。
「大変申し訳ございません! 私、犬はちょっと……。何よりも苦手な動物でして……」
「どうという事はなかろう。苦手がどうした。どこぞの国には、『ブスは3日で慣れる』という心強い言葉があるそうだぞ」

犬の美醜なんてわからないし、そもそも人間ではないという時点でその言葉が当てはまるとすら思えない。

「突然の話に困惑するのもわからなくはない。だが、ここには君の友人もたくさん住んでいる。臆することはあるまい?」

カドラスが言外にほのめかした挑発がわかる気がした。
そして、それを理解した上で承諾する自分も、結局は3年前から一歩も前に進んでいなかったのだ。
フィーは自虐的に笑った。

「喜んでお引き受けいたします」
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