君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜

 過去

レイに促され、フィーはソファに腰を降ろした。その横にレイが座る。
何も言わず、ただフィーの言葉を待っているようだった。

「三年前まで、私は侯爵家の娘でした。広大な農地とそれを管理する使用人、侍女達がいて、今思えば不自由のない生活を送っていました」
自分でも驚くくらい、言葉が淡々とこぼれてくる。
あの頃の情景を思い出すと、夢物語を語っているような錯覚すら感じる。

「ですが、ある日、父が落馬事故で急死してしまいました」
レイの顔色がわずかにくもった。それでも、無言でフィーを真っ直ぐに見つめている。

「狩の最中、突然目の前に犬が飛び出してきて。父は避けようとして、落馬してしまったそうです」
狩猟仲間が抱えて帰って来た時にはもう意識がない状態だった。
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