君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜
フィーは急く気持ちを押し込めて、正面のドアをほんの少し開けた。その音に廊下の兵士が驚いたように振り返る。顔だけのぞかせて、一言一言をはっきり強く押し出す。

「今すぐ、カドラス様をここへお呼びください。フィー・アッバスがご報告したい事があると。早急にお越しくださいと」
「こんな時間にですか?」
「今すぐ……早く、早く呼んできてください!」

困惑した兵士の顔を一瞥し、フィーはすぐにドアを閉め、レイの元へ駆け寄った。

「レイ様……」
震える手で何度も体をさする。
「大丈夫です、すぐお医者様が……」

あの時に似ている。
父親が意識不明で担ぎ込まれて来たあの日。
吸っても吸っても息が苦しくて、深い穴に落ちたように全身の感覚が消えた。ただ、胸を打つ鼓動だけが妙に強くて、それが辛うじて意識をつなぎ留めていた。
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