好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】
『紅(くれない)のちい姫』
見えてくる映像の端々に映る、月の色をした女性の口がそう囁いた。
そして一番大きく、母と同じ顔をした、けれど別の人が真紅に向けて手を差し伸べる映像が見えた。
真紅は、その手を取った。
「――桜木真紅っ?」
現実から聞こえた声に呼び戻されるように、真紅の意識は一気にクリアになった。
頭痛は引いている。
見えるのは黒藤と――見知らぬ青年だった。
中性的な容姿だが、白桜のときにもわかったように、彼は男性だとわかる。
「澪(みお)
黒藤がその名を呼ぶと、青年は萎縮したように顔を強張らせた。
だが、すぐに真紅を見て来た。そして大きく舌打ちをした。
「若君! これは一体どういうことですか!」
「黎に異変か」
「血を吐いて倒れました。その血は、蒸発するように消えました」