好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】



涙雨の翼に掴まって、その周りを突風が巻いたかと思うと、すぐに『真紅嬢よ』と涙雨の声がした。


風の勢いで瞑った目を開ければ、そこはいつか、黎と話した病院の中庭だった。


「ほんとに来ちゃっ……」
 

――ドクンッ
 

呟きが終わる前に、真紅の心臓が一際大きく脈打った。


思わず胸の辺りを押さえる。


同時に、真昼を告げるまちの放送の鐘が鳴った。


――正午。真紅が生まれた、ちょうど一日前だ。


「――――⁉」
 

襲って来たあまりの痛みに真紅は、今度は両手で頭を押さえた。


頭の中を風が駆け抜ける。何かが思い起こされていく。


記憶、断片、集まって『真紅』になっていく。
 

――桜木真紅は、ここにいる。

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