好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】


甦って来た記憶の中に、月の色をした女性の口が、そう動いていた。


真紅の唇も同じように動く。


それを聞いて白桜ははっと息を呑み、黒藤は片目をすがめた。
 

真紅は片手を、黎の方へ伸ばす。この言葉は、あなたのため。


「かの、ものより、きしょうをとりはらいたまえ」
 

思考より先に口をついて出る音の意味を、遅れて頭が理解する。


どこかで聞いたような言葉。身体の奥底で紡いだことのある言霊。

 

謹製し奉る
 
彼の者より鬼性を取り祓い給へ



「急々如律令――」
 

きゅうきゅうじょりつりょう――今すぐそうせよという、意味の言霊。
 

真紅の言霊は、空気を一変させた。
 

漂っていた鬼性――黎から掃き出された妖力の残滓が、ことごとく浄化されていく。


そして黎は真紅を抱き寄せて深く息を吐いた。
 

その吐息が、最後だった。

< 410 / 447 >

この作品をシェア

pagetop