好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】
閉じ込められていた時間が幼さの大半である黎は、ただ固定された空間の中にいない時間がすきだ。
夜の散歩で――
昨日は更に食事の日だったので、飲まされた不味い血の残り香を振り切るように月夜を歩いていた。
どこでもないところへ行きたいと。
――ああそうだ。
一度は母の育った家を見てみたい、とか、そんな益体もないことを考えながら。
そんなことで時間を潰していたら、香って来た。
たぶん、人生で初めて自分から探したもの。
月の香りの、少女。
……あの夜は、はっきり言って不可解だ。