クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「グレーテ姫、なぜここに?」
「少し時間が空いたので来たの」

 婚約者になったとは言え、リュシオンも私も生活は変わっていない。
 騎士の仕事があるリュシオンは忙しく、あまり会う時間を取る事が出来ない。
 だから時間の余裕のある私が、こうやってリュシオンを訪ねる事が多かった。
 訓練中のリュシオンと長く話す事は出来ないけど、姿を見るだけで満足だったから。

 それは初めての事では無いのに、リュシオンはなぜか苛立ったように顔を顰めた。

「ここに入ったら駄目だと言われませんでしたか? とにかくあちらへ移動を」

 リュシオンが示す一角には天幕と椅子が数脚置かれている、身分高い上官が訓練を眺める為に用意された席だった。先日、リュシオンの模擬試合を見た時に案内された場所だ。

 でも、あそこからじゃ訓練中のリュシオンは、位置的に良く見えなくてつまらない。

「ここでいいわ。もう少ししたら部屋に戻るから」

 そう言えばリュシオンは受け入れてくれると思った。

 この半月でリュシオンの私への口調、態度は大分気安くなっていたけれど、基本的な私への接し方は変わらずに優しく、わがままを言っても笑って許してくれていたから。

 それなのに、今日に限ってリュシオンは笑顔を見せてくれずに私の腕を強引に掴み低い声を出した。

「グレーテ姫、直ぐに移動するんだ。ここは危険……」

 いつになく厳しいリュシオンの声に私が固まってしまっていると、耳を塞ぎたくなるような激しい金属音が辺りに響き、私は咄嗟に目を瞑った。

「きゃあ!」

 続いてホリーの悲鳴が聞こえる。
 恐る恐る目を開けると、大柄な騎士の男性が倒れているのが見えた。その直ぐ隣には腰を抜かしたように座り込むホリーがいる。
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