クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 ベルツ家の跡継ぎが、敵地で腰を抜かしてしまうって……。

 そんな思いが胸をよぎったけれど、私を庇ってくれたことで酷い事をされたのかもしれないと考え直した。

 よく見ればヘルマンの目は泣いたように赤く充血しているし、余程の恐怖を受けたのだろう。

 ヘルマンの精神力については追及しないことにしようと目を逸らしている内に、彼はどこかに連れていかれてしまった。

「ねえリュシオン、ヘルマンは馬車に乗らないの? あの様子では馬に乗るのは無理そうだけど」

 そもそも、普段から馬に乗れるのかすら疑わしいと思ってしまう。

「ヘルマン様はサウル王子の共犯者ですから、グレーテと同じ馬車に乗せる事はできません」

 私は驚き目を瞠った。

 私の知った事情はまだろくに伝えてないのに、リュシオンは既に何もかも分かっているような口ぶりだから。
 だけど私を助けてくれたた事実までは知らないはず。

「リュシオン、ヘルマンも騙されていたようなの。それにさっきも言ったけど、サウル王子に抵抗して私を逃がしてくれたわ」

 だから、あまり酷い扱いはしないでほしい。

 リュシオンは私の気持ちを分かっているように、穏やかな笑みを浮かべて言った。

「心配しなくて大丈夫。手荒な真似はしないよう部下にも伝えてあります」
「……ヘルマンはどうなるの?」
「レオンハルト様の沙汰を待つ事になります」
「そう……」

 お兄様は普段は適当な人だけれど、肝心なところでは手は抜かないし、情に左右されたりしない。
 
 だからきっと、ヘルマンが無罪放免になる事はないだろう。

 そうなればベルツ家の後を継ぐことは不可能になる。
 カサンドラの事を心配していたヘルマンにとって、無念なことだろう。

「ベルツ家はこれから先大変ね……カサンドラ様も不安でしょう」

 呟けばリュシオンの顔色が悪くなった。
 カサンドラのことが心配でたまらないのだろうか。

 だけど、リュシオンの口からカサンドラの事が出て来ることは無かった。

 沢山の気掛かりを抱えながらも、私達はリュシオン達に守られて無事ベルツ家へ帰還した。
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