クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「……そんなの変だわ。どうしてリュシオンが謝るの?」

 思わず口にすると、リュシオンが困惑しているのが伝わって来た。

 さっきからの私の言動を、不審に思っているのだろう。

 リュシオンに悪気は無いのは分かっている。ただカサンドラ様に償おうとする気持ちを持っているだけなのだから。
 私が勝手に気分を悪くしているだけなのだ。

「ごめんなさい、何でもないわ」

 これ以上カサンドラ様の事を話していたら、何を口走ってしまうか分からない。

 気分が晴れないまま、自分から話を打ち切った。

 リュシオンは何か気にしている様子だったけれど、それ以上カサンドラ様については触れずに、穏やかな声で言った。

「グレーテ。私はそろそろ発ちます」

 ああ、もうそんな時間か。

 こんな風に、モヤモヤした気持ちのまま別れることになるなんて思ってもいなかった。

「護衛としてフレッドを残していきますので、何か有れば申し付けてください」
「フレッドを? 大丈夫なの?」

 顔見知りでホリーとも仲の良いフレッドが残ってくれる事は心強いけれど、頼りになる部下が不在では、リュシオンが困らないのだろうか。

 リュシオンは優しい笑みを浮かべて、大丈夫だと頷いた。

「グレーテの護衛は、一番信頼出来る部下に託したい」
「……私の事も気にかけてくれているの?」

 カサンドラだけではなく?

「当然です。何度もそう伝えたつもりですが」

 リュシオンはそう言うと、私を真っ直ぐ見つめ来る。
 隣合って座っていたから、その距離はとても近い。

 恥ずかしくなってつい視線を逸らそうとすると、それを止める為かリュシオンの手が私の頬にそっと触れた。

「リ、リュシオン?」

 こんな風に触れられたのは初めてだから私は激しく動揺してしまう。

「約束して下さい。無茶な事はしないと」
「は、はい……」

 リュシオンの言葉に素直に頷く事しか出来なかった。
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