Distance
「そいつのことならなんでも知ってますよ、俺。学歴も家族構成も趣味も特技も。あ、なんならオプションでスリーサイズとかもお教えしま」
「わーわーわーわー!!」


__バタン!
慌ててドアを閉める。ドアの向こうから、ひいっという悲鳴が聞こえた。体のどっかが挟まったのかも知れないが、知ったこっちゃない。


「い、今の、って…?」


呆気に取られた村越さんは、ぽかんと口を開けたまま私に聞いた。


「ああ、えっと…昔馴染みの、隣人?みたいな…」
「なんか……ビックリしちゃった。」


顔を見合わせて苦笑いした私たちは、隣のドアをほぼ同時にシュッと一瞥し、再び笑い合った。


「じゃあ…またね?村越さん」
「うん、また。」


片手を挙げ、熊みたいにのそのそと駅の方向に歩く村越さんの後ろ姿を見送った。
暗闇に紛れ、その姿が見えなくなると、隣のドアときっと睨み見る。


「…私のスリーサイズなんか知らないでしょうが。」


だから慌てる必要なんて無かったんだけど。
つい反射的にシャットダウンしてしまった、そのドアが、緩慢な速度で再び開いた。


「__よぉ。おかえり、なほ。」
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