Distance
昨日の夜、寒気がするなって思ってたら、夜中に熱が上がった。あんなにずぶ濡れになったんだから、当たり前か。
…寿士は、平気だっただろうか…。


「それから、スペアキーここ置いとくから。もう失くすんじゃないよ?」


おばあちゃんはちょっと強めの口調で言って、鍵をチェストの上に置いた。


「うん…ありがと」
「じゃあおばあちゃん、町内会のゴミ拾いに行ってくるから」
「分かった。お母さんたちは?」
「もう仕事に行ったよ」
「そっか」
「じゃあ行ってくるね」
「はあい」


ぱたん、とドアが閉まってから、私は冬眠明けの熊みたいにゆっくりと起き上がり、のそのそとチェストの方に歩いた。

鍵を見つめ、せっかくおばあちゃんが用意してくれたけど、もう使わないかも、と思った。

元々、三日月荘に一人暮らしをすることにしたのは、寿士の近くに居たかったからで。けど、いつでも会える安心感から、その状況に甘んじて、自分の気持ちを伝えようと頑張ってこなかった。

もう、あそこにいる意味はない。

私は押入れの中から高校時代に着ていた、よれよれで毛玉付きの服を取り出して着替えた。一晩汗をかいたパジャマを洗濯カゴに入れて、リビングに行くと、誰もいなかった。

ダイニングテーブルの上には、ラップが掛かったお皿の上にトーストとサラダが乗っけられていた。テレビを点けると、旅番組が流れている。

あ、今日って土曜日か。
良かった、仕事が休みで。土日は学生さんがバイトに入ってくれる。

コーヒーに牛乳をたっぷり入れて、椅子に座って一口啜った。
ボーッとしていた頭が徐々に冴えてくる。
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