あの夏の続きを、今

「広野さんも……今までありがとう。

3年生が僕一人で、不安なこともいろいろとあったけど……

広野さんは本当に頑張り屋さんで、演奏の上達もとっても早くて、1年生とは思えないほどの上手さで……

広野さんのおかげで、僕も安心していられたんだと思うよ。

まあ、広野さんなら、僕がいなくても絶対上手くなってたと思うけどね」

「ええっ、そんなことないですよー!私、松本先輩がいろいろ教えてくださったから、ここまで来れたわけで」

「そうか、そう思ってくれるなら、良かったよ。

僕、広野さんの音、すごく良いと思ってる。うまく言えないけど、なんか、広野さんらしい、広野さんによく似合う音っていうか」


その言葉を聞いて、私の心臓は、ドクン、と大きく跳ねた。


「私も、松本先輩の音がすごく好きなんです!明るくて、聞いているだけで温かい気持ちになれて、松本先輩らしい所が、すごく良いなって」


すると松本先輩は、「いやいや、そんなことないって。僕はただ、あの人の……」


そこまで言うと先輩は急に言葉を詰まらせてから、「そっか、広野さんはあの人のことを知らないから………何でもないよ、ごめんごめん」と、何かを誤魔化すように言った。


「あの人って、誰ですか?」

「いや、話すと長くなるから、言わないでおくよ」

「えー、ひどいですよぉー」

私は冗談っぽく笑いながらそう言ったが、松本先輩はふふっ、と笑って誤魔化すばかりだ。
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