あの夏の続きを、今
それに対して松本先輩は、やはりあの優しげな笑顔で────でも、どこか寂しげに見えないこともない表情で────アカリ先輩の方ではなく、窓の外の方を向いて、ぼんやりと遠くを眺めるようにしながら答えた。
「やだな、立場が逆だよ。あの頃は何もかも柏木さんに……で、僕なんて…………かどうかすら怪しかったから。だからこそ、去年の9月のあの時、…………いなくなってから……」
一部しか聞こえない声をうまく聞き取ろうと頑張っていると、突然、私の背後でカリンの声がした。
「おーい!志帆ー!なんか、1年生だけで写真撮ろうって〜!」
「えっ、それ、引退式関係なくない?」
「でも、せっかく今日は特別ルールでカメラ携帯持ち込みOKなんだから、みんなで撮っておきたいなーって言われて!」
「わかった、行くー!」
私はカリンの方へと駆けていく。
────そういえば、さっきの会話に「柏木」って名前が出てたけど、一体誰のことだろう。
今の吹奏楽部の3年生に、「柏木」という名字の人はいない。
どこかで一度だけ聞いたような気がしないでもないけれど、思い出せない。
一体、誰なんだろう────
「志帆、何ぼーっとしてるの?早く早く~」
カリンの声で、私ははっと我に返った。
「ごめんごめん、すぐ行くよ~」
その後も私たちは、先輩たちとの別れを惜しみつつ、楽しいひとときを過ごした。
やがて帰る時間になり、私が音楽室を出ようとした時、「広野さん」と、後ろから呼び止められた。
────松本先輩だ!
「は、はいっ、何でしょうか!」
松本先輩に最後に話しかけられたことが嬉しくて、思わず声が上ずってしまう。
振り向いて、視線を上げて松本先輩の顔を見る。
オレンジ色の夕陽に染められた、優しい笑顔。
────なんて温かな表情なんだろう。
思わずその顔に見とれてしまう。