あの夏の続きを、今


やがて、バスは会場に着いた。


トラックから楽器を下ろし、冷房のよく効いた楽器置き場に運ぶ。


この会場に来るのも、もう4回目だ。


見慣れない制服を着た人たちが、ロビーや楽器置き場を慌ただしく行き来している光景を見ると、ああ、本番なんだな、と実感する。


楽器を運び終えて、集合時間が近づいてきてから、移動の準備。


楽器ケースから銀色に輝く私のトランペットを取り出す。


いつもと違う場所で、いつもと違う輝き方をしている楽器。


本番の時は、一刻一刻と近づいてきているんだなと実感する。


けれど、不思議と緊張はしてこなかった。


この前の吹奏楽祭でもここで演奏したし、もうこの会場での演奏にも慣れてきたからだろうか。


楽器、楽譜、チューナー、タオル。必要なものを持ったら、パートごとにロビーに整列する。


トランペットパートの先頭はアカリ先輩。その後ろにカリン、その後ろに私。


その後ろに、3人の後輩たちが並ぶ。


私はトランペットをぎゅっと抱きしめる。


────とにかく、今は、演奏だけに集中しよう。


どんなに人間関係がこじれたって、それを演奏にまで持ち込むわけにはいかない。


泣いても笑っても、私が今回2ndをやるという事実は変わらないんだから、それなら今日の演奏では、2ndとしての役目を精一杯果たそう。


それが、私に与えられた役目なんだから。


今の私にできることは、それだけなんだから。
< 267 / 467 >

この作品をシェア

pagetop