あの夏の続きを、今
カリンはソロを吹くのを嫌がっていたが、トランペットパートの中で一番高い音が綺麗に吹けるのはカリンなんだから、と私が一生懸命説得して、やっとのことでカリンにソロを引き受けてもらった。
本当は、私がソロをやりたい、という気持ちもほんの少しだけあった。
けれど、アカリ先輩の思いに忠実でありたいという気持ちと、より良い演奏をしたいから、一番ソロを吹くのに向いている音を出せるであろうカリンにソロを吹いてもらいたい、という気持ちの方が遥かに強かった。
だから、私は自分がソロを出来なくても、全く気にしていなかった。カリンが上手いソロを吹いてくれるのなら、それで良かった。
私は私で、低い音のハーモニーという、私の得意とする役割に集中しよう。
1stほどは目立てないけれど、もし松本先輩がこの演奏を聴いたら、1stやソロが出来るカリンの良さだけでなく、2ndのハーモニーで1stを引き立てる私の良さだって分かってくれるはずだ。
何しろ、松本先輩は今はユーフォの担当なんだから。
ユーフォは究極の「目立たないけれど、他の楽器の音を最大限引き立てる」楽器なんだから。2ndのハーモニーの良さが、分からないはずはない。
自分の音を極めて、そしていつか、私の成長した姿を見てもらいたい。
松本先輩の後輩として、今も頑張り続けているというその証を、見て、聴いてもらいたい。
────先輩と一緒に過ごすことになるのか、それとももう会えなくなってしまうのか。
いずれにせよ、いつか必ず、もう一度私の音を先輩に聴いてもらいたい。
そう願いながら、今日も私はトランペットを吹いている。