氷のヒカリ



真夏の深夜、俺が雇われている会社の屋上。

目を背けたくなるくらい、満月が輝いている。

そよ風が優しく俺の頬を撫でる。



風の音を聞く、という似合わないことをしようと目を閉じると、ドアノブが回される音のほうが先に聞こえてきた。



闇社会に入って、何人も殺してきたから、俺の敵は多い。

だから、ドアを開けようとしているのが敵だと思い、数少ない物陰に隠れる。



「氷(ひょう)、次のターゲットが決まったわよ」



聞こえてきた声で、俺はその人物の前に姿を現す。

目の前にいるのは俺の直属の上司、笑里(えみり)さん。

もちろん、コードネームというやつだ。

俺の場合、氷。



笑里さんからターゲットについての資料を受け取る。



「この仕事、確かに承りました」



ズボンのポケットから黒い手袋を取り出し、装着すると、笑里さんは建物の中へと消えていった。


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