騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
 



気が付くともう、陽が沈みかけている。

……戻らなきゃ。このあと晩餐会があるのに、こんなところで油を売っていたら、また、ルーカスに迷惑をかけてしまう。

これ以上、彼をガッカリさせるようなことがあれば、今度こそ愛想を尽かされてしまうかもしれない。


「──ビアンカ・レイヴァだな?」

「──っ!」


けれど、ビアンカが踵を返して来た道を戻ろうとした時。唐突に背後から名を呼ばれて肩が揺れた。

静かに振り向くと、そこには頭から真っ黒なフードを被った、大柄の男が立っていて思わず目を見開いて固まった。


「こんなところでお会いできるとは、俺はとても運がいい」

「あ、あなたは……?」

「おっと、ここでゆっくり話している時間はないんだ」

「──!?」


直後、黒い影が彼女を襲った。

(……何!?)

慌てて手足を動かしてみたものの、ビアンカは口元に厚い布をあてがわれ、その場で意識を手放した。

ダラリと、力なく下がった細い腕。

ビアンカの髪についていた金色の髪飾りが、小さく音を立てて冷たい床の上に落ちて弾んだ。


「……お前には、鴉を殺すための餌となって頂こう」


闇の中で嗤う影。氷のように冷たい手。

ビアンカの身体を抱えた男は、眠る彼女を見て楽しそうに、目を細めた。

 
< 128 / 224 >

この作品をシェア

pagetop