御曹司と溺愛付き!?ハラハラ同居
だいたい知っていたら、出社してこない。


結局、なにも聞けないとわかった人たちは、私を解放してくれた。

でも……ニュースを聞きつけて押し寄せた大量のお客さま。
怒号を上げているその人たちの輪に入っていくのは勇気のいることだったけど、私はその前に立ち、頭を下げた。


「本当に申し訳ありません」

「お前、社員か。何年も貯金してやっと旅行に行けると思ったのに、どうしてくれるんだ！」

「すみません……」

「謝罪なんていらない、金を返せ！」


中には私に詰め寄り、肩をドンと押す人もいた。
でも、その気持ちがよくわかるので、私はひたすら頭を下げ続ける。


「もうやめましょうよ。あなた、倒産するの知ってたの？」


そのとき、ひとりの老夫婦が私の前に立った。


「いえ……」

「それじゃあ彼女も被害者よ。それなのに、こうして頭を下げて……立派じゃない」


私はその優しい言葉を聞き、我慢しきれなくなって涙を流してしまった。
辛いのはお客さまのほうだと必死に我慢していたのに。
< 12 / 344 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop