傘も方便【短編】






って、一人気合い入れてたのに結局、仕事が終わってエントランスに来ると当の本人が待っていた。


「覚えといて。俺、せっかちなんだ。やっぱ明日までなんか待ってらんない。ご飯、行くよ。」


って、私の返事も聞かずに歩きだす。


だから歩くの早いんだって。


しかも、おいおい、手、手繋がれてるんですけど……


まっ、いっか。


だって彼の耳が少し赤いのが分かるから。


繋がれた彼の手から感じる温もりが優しいから。


ビルを出ると雨は止んでいた。


雨上がりの夜空にはストロベリームーン。


幸せな予感が私達を包み込む。


雨が運んでくれた新しい恋の予感。


私はそっと手を握り返した。


驚いた顔して振り返った彼の瞳が直ぐに優しく弧を描く。


そしてまた前を向くとぶっきらぼうに私に告げる。


「俺の名前、ーーー」


なんだか順序がムチャクチャだけど、まっ、いっか。


お店につくまでにいくつ彼のことを知れるだろうか。


私のことをどれくらい知ってもらえるだろうか。


雨上がりのせいなのかーーー


はたまた私の気持ちがそうさせるのかーーー


彼に手を引かれ歩く見慣れた街並みはとてもキラキラと輝いていた。





















































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