傘も方便【短編】
「っで?さっき意思表示出来たって言ってたけどもういいの?」


そうだった。


森井さんに対してハッキリ態度で示したんだっけ?


「はい、それはもう全く大丈夫です。」


うん。その気持ちに嘘はない。


「じゃあさ、」


「はい?」


「じゃあ、やっぱこの傘返すの止めるわ。」


「傘……ですか。」


「うん。で、もし俺に少しでも興味持って貰ったなら受け取りに来てよ。明日もあの蕎麦屋で食ってるから。じゃ、お先。」


「あっ、えっ、えっ、」


降りてきたエレベーターにササッと乗って行ってしまった。


自分の言いたいことだけ言って行っちゃったよ。


しかも私のビニール傘、また持ってったし。


そう言いながらもこんなにもワクワクしているのはなぜだろう。


まるで梅雨の晴れ間みたいな人だな。


梅雨生まれの雨男の癖に。


今朝までどんよりしていた私の心を一瞬で晴れさせてくれる。


ちょっと強引だけどね。


さてと、明日は晴れる?


それともまた雨?


どっちでもいいや。


傘が必要だろうがなかろうが、きっと私はあのお蕎麦屋さんに向かう。


だけど直ぐには言わないでおこう。


あなたに興味を持ちました。なんて。


ちょっと悔しい気がするもん。


傘を返してもらいに来ただけよって格好良く言ってやるんだから。


それでなんか文句でも言ってきたらこう言うんだ。





ーーーー傘も方便でしょ?って












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