鈍感な二人
広く、豪華な装飾に彩られた部屋の窓辺で、エーデルはため息をついていた。



自分は、何か失敗したのだろうか?



母に連れられてやってきたアッシュベルト邸は、エーデルの想像をはるかに超える華やかさだった。



左右対称に作られた大きな城。高く水しぶき上げる噴水のある広い庭には、見合いの席でクリスフォードが言っていた見事なバラ園があった。


緊張していたエーデルをアッシュベルト家の使用人たちは温かく迎え入れてくれた。そのことに安堵したエーデルだったが、肝心の夫となるはずのクリスフォードの様子がおかしいのに気付いた。


見合いの席では、目を見て優しくほほ笑んでくれたクリスフォードだったが、今日はエーデルの顔すら見ようとはしなかった。それどころが、エーデルを明らかに避けていた。


バラ園を見せてくれると言うので、喜んだエーデルだったが、案内したのは、側近のアルだった。クリスフォードは仕事があるといって、早々に自分の部屋へと行ってしまった。


申し訳なさそうにするアルに、エーデルは平静を装ったが、心の中では深く傷ついていた。



きっと、クリスフォード様は、私と結婚したことを後悔なさっているのだわ。



そう思うと、エーデルは泣きそうになった。



嫁ぐ家が、自分の生家よりも身分が高い場合、嫁ぎ先に、使用人を連れて行けない。使用人を連れて行くと言うことは、そこの家の使用人が、満足のいく仕事ができないと言っているのと同然だ。


仕えている家の身分が高ければ高いほど、そこに仕える使用人のプライドも高い。


クリスフォードは見合い以降の手紙のやり取りで、エーデルが気の許せる使用人を連れてきても良いと言っていたが、エーデルはそれをしなかった。


それは、先の嫁ぎ先で苦労した継母ヘレンからの助言もあったからだ。


ヘレンは、自分を慕ってくれる継子が嫁ぎ先で少しでも気に入られるようにと心を砕いていた。そんなヘレンを見て、エーデルは、使用人を連れて行くとは言えなかったのだ。


でも・・・・


こんなことになるなら、アリスについてきてもらえばよかった。


いくら、変わり者のエーデルとはいえ、大事に育てられた19歳の箱入り娘である。クリスフォード以外頼れるものがいない中で、当の本人に避けられては落ち込むのも無理はない。


エーデルは、自分用に用意された豪華な部屋の端っこで椅子の上で膝を抱えていた。
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