鈍感な二人
そんなわけで、クリスフォードは、大いに戸惑っていた。


今日は、一応、自分達夫婦にとって初夜なのだ。


(エーデルは、どこまで覚悟して俺と夫婦になったのだ?)



使用人と泥まみれになっていた彼女が、男女の情について知っているとは思えない。一方のクリスフォードは、女性経験はあるが、恋愛経験はないという、その点については一般的な最低貴族青年である。


政略結婚したからには、クリスフォードの子を産む覚悟もできていると思うのが一般的である。しかし、相手はエーデルだ。とぼけた顔で、そんなつもりはなかったと言いのけてしまいそうでもある。


こんな夜更けになる前に、それとなくエーデルに尋ねておけば良かったものを、使用人の言葉を聞いてしまってから、変に意識してしまって、会話どころか、今日一日ろくにエーデルの顔さえまともに見れていない。


そんなクリスフォードの態度をエーデルはどう思っているのだろう。それも気になって余計にどうすればいいかわからない。


そんな思い悩むクリスフォードを見つめる人物がいた。クリスフォードの側近、アルと使用人頭のパリスである。



「クリス様は何をなさっておいでなのだ?」


「・・・」


アルは答えない。


パリスはクリスフォードの父の時代からこの屋敷に仕える男である。忙しかったクリスフォードの父と、早くに亡くなったアルの父の代わりに二人を息子のように思ってきた。


そんなパリスは今、息子のように思っているアルと一緒に、同じく息子のように思ってるクリスフォードを柱の物陰から見ている。かれこれ30分以上。


いい加減、やきもきしてきた。


「仕方ありません。奥の手で行きましょう!」


そう言って、状況がいまいち掴めないパリスを残して、アルはどこかへ行ってしまった。



アルがどこに行ったか気になるパリスだったが、それ以上に気になるのは、今日のクリスフォードの態度である。
不自然なくらいエーデルを避けていた。いつもの鈍感な無神経っぷりを発揮しているのかと思ってみていたが、そうではないことがパリスにはわかった。


クリス様はエーデル様を意識し過ぎている。


それに気が付いた途端、かける言葉が見当たらなくなった。



しかし、いつまでやっておられるのだ・・・



傍から見れば、手を上げたり下げたりしているだけのクリスフォードをパリスは柱の陰から辛抱強く眺めていた。
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