強引社長といきなり政略結婚!?
「小さいころから、こういう怪我はしょっちゅうでしたから」
「木登りで骨折したりね」
やっと笑顔を見せてくれた朝比奈さんにホッとする。
「そうです。だから気にしないでください」
「わかった。ありがとう」
近距離で微笑まれて、照れ臭さに俯く。
今、ふと気づいた。自分の心臓が普段と違う動きをしていることに。
多分それは、こんなに密着するのはもちろん、男の人に抱きかかえられるのが初めてだから。それを改めて思い出したことで、余計に早鐘を打つ。
困ったな。どうしよう。これじゃ、くっついている部分から鼓動が伝わっちゃう。
そう思ったところで、この体勢を変える術はなかった。
どのくらいの時間をかけて歩いただろう。ようやく事務室に戻った私たちを見て、従業員が何事かと慌てる。
朝比奈さんは私を片隅にあるソファに下ろすと、お腹の底から息を吐きだすようにした。きっと腕はパンパンだろう。
「確かさっき、獣医の石井さんがいただろう?」