強引社長といきなり政略結婚!?

「いえ! 私のご心配はどうかなさらないでください」

「店に手帳を忘れてしまって、汐里さんが会社まで届けてくれたんです」

「まぁ、そうだったんですね」


多恵さんは口元に手を当てた。
朝比奈さんは多恵さんに向かって頭を下げると、トランクに積んできた自転車を下ろしてくれた。


「それじゃ、汐里さん、また」

「ありがとうございました」


私に軽く手を振って、朝比奈さんが運転席に乗り込む。
走り出した車を見送り、私は自転車を片づけようと押して歩き出した。


「汐里様」


背中に多恵さんの声がかかる。


「朝比奈様って素敵なお方でございますね」

「……え?」


多恵さんは走り去った車のほうをいったん見て、もう一度私のほうを向いた。

「とても誠実なお方とお見受けいたしました。この前は突然、汐里様をお連れになってしまうから、どんな野獣なのかと思っておりましたが」


――野獣って。
まぁ確かに、多恵さんならそう思っても仕方のない行動だったかもしれない。
それが、二回目で簡単に覆ってしまった。
両親に引き続き、多恵さんまで飼い慣らしてしまうとは。

朝比奈一成。ただ者じゃないみたいだ。

でも、私は簡単になびかないぞ。
上辺だけの言葉を操る彼をとことん見極めてやるのだ。
この結婚が正しいことなのかを――。

< 74 / 389 >

この作品をシェア

pagetop