【短ホラー】ドウソウカイ。
あたしは咄嗟に身を固まらせた。


しかしそんな行動をしてももう遅く、

「くくっ…誰だい…?」

男は可笑しくて仕方がないといった様子でこちらに向かってくる。


弱々しかった心臓が、急に沸騰したように動き出す。


そんなあたしにお構いなしに男はゆっくりと近付いてきた。




指先に重みを感じる。


男は杭で打ち付けられているあたしの手の指を、潰すように踏みつけた。


痛みも恐怖もなかった。


ただ、こんな意味の分からない状況でどうしてあたしがこんな目にあわなければならないのか、悔しくて悲しかった。


あたしはここで殺されるのだろうか……


そう諦めかけたとき、あたしの目の前に銀色の粉が舞った。


雪のように降ってきたそれは、音もなく落ちた。



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