先生、もっと抱きしめて
「着いた。降りる?」

「うんっ」

もうすでに、フロントガラスから一面に夜景が広がっているのが見える。
慌ててドアを開けて降りて、最前線へ駆けだした。

「わあっ」

足場が悪く、段差でコケて両手をつく私――。

かっこわる~!
泣きたい!
膝すりむいてるし!

こんなにきれいな夜景なのに、……私……。

「意外とそそっかしいよな。ほら、こっち。よく見て、下」

私の前に、先生が手を伸ばした。

「コケたからって泣くなよ」

「泣いてないもんっ……」


差し出されたこの手は……。

私が握ってもいいの?


先生、もう気付いてるでしょ?

私が先生に惹かれてやまないこと。
尊敬だけの気持ちじゃないこと。

なのに……。

暗さに慣れてきた目が合う。
私が黙っていると、先生が頷く。

「先生、私……」

「おいで」


この手に触れたら、止まらないと思う。
この思い、もう抑えられない。
< 38 / 55 >

この作品をシェア

pagetop