狼社長の溺愛から逃げられません!


すべて見透かされているようで落ち着かなくて、私は頬を膨らませながら口を開く。

「だいたい試写室は禁煙ですよ。社長は煙草を吸い過ぎだと思います。仕事中もずっと吸ってるし、体に悪いです。禁煙したほうがいいですよ」

早口でそう言うと、社長は私の話なんかまったく聞く気もないようで、視線をスクリーンに移す。

大きなスクリーンに映し出された砂漠に登る太陽を眺めながら、社長は意外そうに口を開いた。

「ずいぶん古い映画を見てるんだな。失恋したときに見るなら、もっと思い切り泣ける映画か、スカッとするアクション映画の方がいいんじゃないか?」

そう言われ、私もスクリーンの方に体を向ける。
見渡す限りの地平線。赤茶けた砂漠と青い空以外何もない世界がそこに映っていた。

「……そういう映画もいいんですけど、どこか遠くに行きたいときはいつもこの映画を見ちゃうんです。ちっぽけな人間じゃ太刀打ち出来ないような圧倒的なスケールの砂漠に、理屈じゃなく引き込まれるから」

私がそう言うと、隣で社長が小さく笑った。

「やっぱり失恋していじけてたんだな」
「はっ!!」

しまった。
うっかり失恋したことを認めてしまっていた自分に気づいて口を覆うと、社長はうつむき吹き出すように肩を揺らした。

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