狼社長の溺愛から逃げられません!


「いえ……、なんでもないです」
「目が赤い。泣いてたのか?」
「べつに……」

失恋してひとりでこんなところで泣いていたなんて知られるのは恥ずかしいから、なんとか誤魔化そうと顔をそらす。
すると、それまでじっと私を見ていた社長がうつむいて小さく肩を揺らした。

「男に振られて、いじけて泣いてたのか」
「はっ!?」

からかうような声色に、ぎょっとして目を見開く。
取り乱した私の様子に、社長がクスクスと笑いながら意地悪な視線をこちらになげる。

私はぐっと口をつぐんで社長を睨んだ。

落ち着け落ち着け。
ふーふー、と肩で深呼吸をしながら自分に言い聞かせる。

「別に、泣いてなんていません。社長の煙草の煙が目に入ってしみただけです」

私が唇を尖らせてそう言うと、社長はまったく信じてなさそうに「ふーん?」と笑った。

< 33 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop