狼社長の溺愛から逃げられません!

「偶然なわけないだろ」
「え?」

意味がわからずぽかんとしていると、社長が苛立ったように声を低くした。

「お前はほんとうに鈍いな。簡単に口説かれて簡単に落ちて」
「そんなこと……!」
「付き合ってからも、相手がどんな男か本性も知らずに浮かれてたんだろ」
「ど、どういう意味ですか?」

社長の言葉に驚いて顔を上げる。すると社長は無言で私の顔を見下ろしていた。
少し考えるように視線をそらし、舌打ちをする。

「……本当にお前は、イライラするほど鈍感で無防備すぎる」

この人は舌打ちをする姿さえ絵になるな、なんて思わず社長の顔にみとれていると、長い腕がこちらにのびてきた。
大きな手のひらに後頭部を支えられ、体を引き寄せられる。
驚いて目を見開いた私の視界は、たった今まで見惚れていた端正な男の顔で覆われていた。
そして、唇に触れた温かい感触。

一体なにをされたのか理解したのは、唇が離れたあと。
確認するように指で触れた私の唇は、動揺で小さく震えていた。

「え……」

キス、した?
今、社長が私に、キスをした?
衝撃で凍りつく私を見て、社長が至近距離で小さく笑う。

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