狼社長の溺愛から逃げられません!
都心にあるビルの八階のオフィスには、あちこちに映画のポスターが貼られていた。
棚の上には積み上げられたDVDや台本。カラフルなフライヤーに、雑誌や資料。物であふれ雑然とした空間の中、私はデスクで頭を抱えていた。
私、有川美月は映画配給会社に勤めて三年目になる、まだまだひよっこの二十五歳だ。
私の勤める映画配給会社『シネマボックス』は、元々はミニシアター系の海外作品を配給していたけれど、五年前のある出来事を転機に大きく成長を遂げた。
買い付けた作品が立て続けに海外映画祭の賞を取り、作品を公開するたびに社の興行収入記録を更新していった。
大手映画会社と協力し、全国で一斉にロードショーされるような大作映画も手がけるようになり、今業界で最も注目されている会社だ。
そして五年前、会社が成長する転機を作ったのが、たった今私に鬼のような指令を出した黒瀬社長だ。
当時海外資本の大手映画配給会社に勤めていた黒瀬社長を、『シネマボックス』の前社長が直々に口説いて引き抜いて、若干二十七歳で新社長に就任したらしい。