過去形はきっと、全てが思い出
リレー開始の空砲が鳴る。

クラス全員で走るリレー、『全員リレー』である。
そのままである。

まずは一年生からだ。
各組の応援団長がそれぞれの色の旗を振る。美術部が作った、格好いいデザインの旗。。。?いや、格好いい、よ?お魚の、旗……。

他の学年はメガホン片手に声援をおくる。

「頑張れー」
俺もそれなりに応援してみる。
「あなた、気合いが足りないわよ」
「気合いなんてお魚に食われたさ……フッ」
結構話しかけてくるな、葵。
「お前、女子と話さないのかよ」
「少し、苦手なのよ」
「友達は?」
「親友が二人よ。後はそこまで仲が良いわけじゃないわ」
中一のとき、かなり友達がいたと思ったが…そこまでしゃなかったのか。
「あ、そうだ。進路はどうするの?」
進路。
もう中三なので、受験が迫っているのだ。
「中学の向かい側の高校だ」
偏差値は57くらいで、通学が車道を挟んで向こう側を通るだけという、丁度良い感じの高校だ。
「ふーん。もっと上目指さないの?」
「まあなー。遠いと嫌だしなー。お前は?」
「賀代高校よ」
賀代高校とは、偏差値66の頭の良い高校。
「うわ、流石」
などと会話を交わしていると、パンッと銃声。
「一年生全員リレー………赤の勝ち!」
イェーイと歓声。
あちゃ、青は二位か。ってか、移動か。
偶数と奇数に走者が分かれて並ぶ。
先に速い人がかなりリードしておく作戦のため、37人中35番目。転けることも考慮されているのだろう。
葵は四番目。速い、速すぎる……!頭良くて運動神経良いとか……。
うわー、二年生も速いなーー。
なんて棒読みで考えながら時間を潰す。
やば、終わるの速い。
もう出番来るの!?ちょ、うぇkshfじょkhsふぉうはclkはfkまbこじぇっf!?謎の言葉になる。
緊張する。緊張緊張緊張緊張緊張緊張緊張緊張緊張!
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!

三年生入場。

「よーい」
パンッ
空砲が響く。
始まってしまった。地獄の競技が。
葵速ええぇぇ!フォーム綺麗だわ。

俺の番だ。ポケットの中に入っている紙を思い出す。
『今を楽しめ、今を』
今を楽しむ。過去なんて忘れて、未来も気にせず、ただひたすらに、今を楽しむ。
心臓がぐわぁぁっと緊張で苦しくなる。

バトンはキャッチできた。走りきれ。前を向いて。
葵に背中を押されたような気がした。
渇ききった口に空気を流し込み、足を懸命に動かす。

次の人にバトンを渡す。

走りきった。走りきれた。転ばなかった…!よっしゃ!
気付かれないようにチラッと葵を見ると、笑顔だった。

走り終えた走者の列に並ぼうとすると、葵が俺の足をつかむ。下に座っている葵を見ると、
「転けるところが見えなくて残念だったわ」
「でもさっき、笑顔だっただろ?」
「残像よ」
と言って並ぶ。
もうすぐ体育祭が終わる。
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