渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
❅プロローグ❅ 王女の旅立ち


「そうだな……お前は明日、イナダール国に嫁いでもらう」


まるで、ちょっとお使いにでも行って来いとでも言うような軽さで、父である国王は告げた。


カルディア・アルナデール、二十四歳。
カルデアは、豪遊する国王によって財政危機に陥った大陸北方に位置する雪の国、アルナデール国の第一王女である。


アルナデール国は、国王の豪遊に加え、年中雪が降ることで穀物が育たないという自然にも見放された絶望的な環境にある。


民から徴収した、なけなしの税金も底をつき、ついに財政危機に陥った。
民の暮らしも厳しい中、税金を私欲に費やす国王に、暴動が起きるのも時間の問題だ。


国王は、変わってしまわれた。
初めから、このように私欲に権力を奮っていたわけではない。


原因は、王妃が亡くなってからだ。
まるで、失った悲しみを埋めるかのように、国王は美女を侍らせ、ついに国の財にも手を出した。



(国王は、すでに国王の器では無い。民の怒りも、ごもっともだわ。私がイナダール国へ嫁げば、民の暮らしも少しは豊かになることでしょう)


「私は王女、国と民の幸せのためならば、この身、いくらでも捧げましょう」


カルデアに、迷いなど無かった。

母国に富みと繁栄をもたらすためならば、たとえ冷酷非道と噂される南方の国イナダ―ルの国王、ヘルダルフに嫁ぐのだとしても、カルデアは厭わない。


カルデアをそうさせるのは、王女という誇りがあるからだ。


カルデアは民に自ら会いに行き、城の蓄えを分け与え、城から出ていこうとする使用人や大臣、兵士達を説得して歩いた。

カルデアがいなければ、この国はとっくに滅びていただろう。

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