ぴーす
8月3日
「さっちゃん、ちぃと丸ちゃん屋さんの隣の木村さんとこに林檎渡してきてくれん?」
そう言ったのは、私のことをさっちゃんと言っている隣の家のおばちゃん。
 おばちゃんは、果物屋さんなのだ。小さい頃、私と同じくらいの女の子を病気で亡くしてから、ずっと私をかわいがってくれるおばちゃん。
(木村さん?それって木村こずえちゃんの家かん?)
「おばちゃん、その頼みごとうち引き受けるわ!」

 そう言い残して、私は大好きな、父の自転車で通りを走る。産業奨励館を通り、島病院も通る。島病院を抜けると、私の大好きな勇太君の家がある。そして・・・私の始めての友達こずえちゃんの家が見えてくる。自転車を丸ちゃん屋さんにとめて、こずえちゃんの家に行く。
 「きーーむーらさーん!」
私の小さな体ではとても重かったたくさんの林檎をかかえて私は叫ぶ。すると、女の人が出てきた。
「あ、これうちんちの隣の家のおばちゃんが木村さんにって・・。」
「ありがとねー、ご苦労様。1つ林檎むいてあげるけえあがりんさい。」
 
木村さんの家はキレイだった。キレイと言うか、物が少なかった。それが印象に残った。
 私は言いたくて仕方なかったことを木村さんに言った。
「あの、木村さん。ここはこずえちゃんちか?」
木村さんは私の発言に驚いた顔をした。
「何で娘を知っとんのん?」
「あ、うち、昨日丸ちゃん屋さんの裏の坂でおぉたんじゃ。」
また木村さんは驚いた顔をする。
「あのう、それでこずえちゃんは?」
私の問いに対して少し言いにくそうに、
「こずやぁね、体が弱い子なん。外に出たらすぐ風邪ひくんよ。そんで、昨日もおばちゃんが仕事しょーる間家で寝させとったんじゃけど・・・。」
「それで、今は?」
「隣の部屋よ。」
 ふすまを開けると、そこにはおでこに氷をおいて寝ているこずえちゃんがいた。

 家に帰ると早速日記を書く。
【  8月3日 <おばちゃんにたのまれた場所は>
 お願い。ってゆうおばちゃんの頼みひきうけた。
 行った先は、なんとこずえちゃんち!
 本当ににびっくりじゃったんじゃ。
 でも、残ねんなんは、こずえちゃん、体弱いんて。
 あんね、こずえちゃんの手帳はまくらんとこに置いてあげた。
 明日も行くつもり。】
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