(完)嘘で溢れた恋に涙する
そう言って豪快に笑うおばさんを見て心が痛くなった。



おばさんは旦那さんとその時の苦労や辛さもいつかよかったと笑える日が来ることを期待して少しずつこの通帳にお金を納めてきたんだろう。



この通帳はただ金額の書かれた紙なんかじゃない。



この通帳に貯まったお金は私やお父さんが好き放題に使い荒らしてきたお金と同じように扱っていいものじゃない。



大事な思いがたくさん詰まったおばさんの宝物のはず。



なのに、それをおばさんは私なんかに使ってくれと差し出した。



犯罪者の家族の私たちを娘や孫のようだと言った。






どうして私には広い世界しか見えていなかったんだろう。



どうして私のことを特に知りもしない人たちの心無い中傷ばかりに心を痛め、自分が一番不幸者であるように勘違いしていたんだろう。



少し視野を狭めれば、そばにこんなにも暖かい優しさがあったのに。



1人でいることは償いなんかじゃなかった。



これ以上傷つくことを恐れて、周りを全て一括りにして自分の世界から押し出そうとしていたんだ。




自分を叱りたい。




そして伝えたい、同じような思いを抱えている人に。



きっとそれが私のできる償いだ。




「おばさん、ありがとう。
私絶対おばさんの大切なお金を無駄にしたりしない。
生きて生きて生きて、
いつか生きててよかったって思えるように頑張るから」




そう言うと、おばさんは泣きそうな顔で私の頭を撫でてくれた。



お母さんは涙で美人な顔が台無しになっていた。



それでもここ何年かで一番生き生きとした顔をしていた。



生きてみせる。



罪を償うために、
そして自分自身のために。




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